広電天満橋


僕は知ってるんだ。

この天満橋を真夜中に走る夢電車がある事。

その電車はこの橋から天満町の電車通りを滑走路にして空に舞い上がる。
行き先も僕は知っている。
そこは自分の思いが叶う理想の世界だ。

自分のやりたい事をやり、嫌な事をやらなくていい、すばらしい世界さ。

僕はその電車に12歳の時に乗りかけたんだ。
けっして夢じゃあない。僕は今でもはっきり憶えているのさ。


僕は、あの時、お母さんが成績の事をあまりにしつこく言うから 嫌気がさして家出したんだ。

そして、行くところもないから、この橋のたもとに座り込んでいた。

夜中の2時頃かな?走らないはずの時間に電車が来て橋の上に止まった。

僕がびっくりして見ていると、中から車掌が顔を出して僕に言った。
「お客さん、お客さんも電車に乗られるんですか?急いで御乗車ください。」

「どこまで行くんですか?」僕が聞くと車掌はこう言った。
「勉強も成績も関係ない理想の世界です。いそいで御乗車ください。」

僕は慌てて乗り込もうとした。
そんな世界があるのなら、ぜひ連れて行ってほしい。

でも、乗り込もうとした僕の腕をつかんで引きずり落とした奴がいる。
「yas!このバカたれ!」
お母さんだ。お母さんが僕を探して電車から引きずり降ろしたんだ。


僕はお母さんのせいで、あの電車に乗れなかった。

でもそのお母さんは、おととい病気で死んだ。
もうお母さんに邪魔をされる事もない。
僕は今度こそあの電車に乗り込むのさ。

真夜中の橋のたもとで待つ事1時間。夢電車が天満橋に止まった。

車掌が顔を出して言う。
「さあ、あなたの理想に向かいますよ。仕事もお金も関係ない。あなた好みの女性もたくさんいますよ。 いそいで御乗車ください。」

あの時と同じだ!僕は慌てて電車に乗り込もうとした。

でも、乗り込もうとした僕の腕をつかんで引きずり落とした奴がいる。
「yas!このバカたれ!」
女房だ!今度は女房が僕を探して電車から引きずり降ろしたんだ!


僕は家に連れて帰られ、女房に泣きながら文句を言われた。

あの時と同じだ。30年前にお母さんに連れ戻された時と同じだ。

「何、バカな事を言ってるの!そんな電車があるわけないでしょ! そんなバカな事言ってないで、もっとがんばって働いてよ!同期の人はみんな出世してるのよ。 あなたはやれば出来る人なのよ!だから・・・・」

同じだ!あの時と・・・
言ってるニュアンスは少し違うけど、言ってる事はお母さんと一緒だ。

「電車?そんなもの見えなかったわよ!あなたが天満橋をフラフラしてたんじゃないの!」

やっぱりそうだ。
女には見えないのだ!あの電車は!

きっと お母さんの時と同じようにまた乗ろうとしても女房に邪魔され続けるに違いない。

僕は絶対に長生きするぞ。

女房より長生きして絶対いつかあの電車に乗ってやるんだ。
嫌な事も苦しい事もない世界に連れてってくれるあの電車に。

広電天満橋

広島市の小網町〜天満町間、天満川に架かる路面電車専用の橋
天満町側は道路の半分以上を路面電車道が締め車や自転車は大変窮屈。
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