[PR]生年月日で2010年運命占い:初回無料!貴女の悩みを占い師に相談

安芸の宮島


ある晴れた日に老人は宮島に渡った。
ここは先日亡くなった妻との思い出の場所。新婚旅行で来た場所だった。

老人には子供はいない。
親戚も他人のようなものだし、仲の良かった友人も皆逝ってしまった。

「もう、わしには何も無いな。」
老人はつぶやく。

老人のバッグの中には、妻の遺骨と自殺用の毒薬。そして遺書が入っていた。
「私が死んだら、この骨つぼに入った妻の遺骨と共に、私をこの島に埋めてください。」


妻と来た宮島は、彼の生涯の中でも忘れられないものだ。
彼ら夫婦はこの場所で初めて打ち解けあい、そして徐々に絆を深めていった。

子供こそ出来なかったものの、時間をかけて共に生きてきた2人は、まるで一つの 生き物のようにお互いの存在なしでは考えられなくなっていたのだ。

そして、その妻が死んだ。
老人はこの最初の思い出の場所で、死ぬ気だったのだ。


老人はベンチに座り空を眺める。
その老人の回りに鹿が寄ってきた。
「お前たち、なにか食べたいのかい?」

老人は鞄の中から煎餅やアンパンを出して鹿に与えた。
これは夕べの彼の食べ残し。死んで行く彼にはもう必要のないものだ。

バリバリバリ!
鹿の食べっぷりの良さに老人はしばらく見とれていたが、亡くなった妻の事がやっぱり思い出される。
しばらく思い出にふけっていると、自分の横に置いた鞄のほうからガサゴソ音がした。

「あーー、お前ら!」老人は大声を上げた。


一匹の鹿が鞄を開けて中の妻の遺骨をほじくりだして喰っている!

「何すんじゃ、お前!」
老人は、その鹿を叩いたり、蹴ったりして止めさせようとしたけれども無駄だった。
妻の遺骨はその鹿が全て食べてしまったのだ。

その場にへたり込んだ老人に、その鹿が上から覆いかぶさる
呆気にとられた老人の顔を見ながら、鹿がこうしゃべった。

「じいさん。あたしゃ、あんたの心の中に生きているのに、あんたが死んでどうするんね。
あんたは、あたしを本当に殺す気なんね。あたしの事を憶えてくれとるのは、あんたしかおらんのよ。」

それは確かに亡き妻の声だった。
鹿たちはその後、何事もなかったかのようにその場からいなくなった。
鞄の中の毒薬も消えていた。

「ははは・・お前の言う通りだな。」
老人は、妻が亡くなった後、初めて笑い、そしてしっかりした足取りでその島を出て家に帰った。

神の島宮島の鹿は、神鹿(じんろく)として皆に大事に扱われている。

安芸の宮島

弥山(みせん)を主峰とする山々と、原始林に覆われた山容に霊気が感じられたところから、
周辺の人々の自然崇拝の対象となる。
宮島に関わった人として、弘法大師、平清盛、豊臣秀吉といったビッグネームが名を連ねる。
写真は大鳥居や土産売り場。そしてかわいいがウザイ鹿たち。クリックすると拡大します。

広島ショートストーリーへ
[PR]寝てても痩せる秘密:なぜ苦労せず痩せるのか?