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広島駅南口


先日、男がここで逮捕された。

男の名はyas。
容疑は駅前にあるデパート、福屋エールエールA館を爆破しようとしたことだ。

「エールエール爆破未遂事件」として中国新聞にも小さく報道された。
yasは警察の取り調べに対して、詳しい動機を語らない。
ただ、怒りに震えた声で、「お袋はあんなもの望んじゃいなかった。」とだけ 繰り返した。

彼に親はいない。
30年前、駅前に捨てられ保護された子供で、彼にお袋と呼べる存在がいないことを 取調官は知っていた。
「まじめに答えろ。」取調官はyasに言ったが、yasはいつも 同じ言葉を繰り返す。

「お袋はあんなデパートは望んじゃいなかったんだ。」


yasは広島駅の南口で拾われた捨て子だった。

捨てられて数カ月間、保護されるまで乳飲み子の彼は生き存えた。
それは奇跡だったのだろう。

不思議な事に彼の周りには、自然と段ボールや新聞紙が集まり、 外気から保護され、野良犬などが彼を襲おうともせず、乳を与えていたというのだ。

施設に保護されてからも、彼はしばしば施設を抜け出し、 駅前周辺で暮らした。
成人してからは、この南口に住むようになる。いわばホームレスだ。

人に「どこの生まれだい?」と聞かれれば、必ず「広島駅」と答えていたと言う。


広島駅前再開発により古い建物が取り壊され、エールエールA館が建設された頃から 彼の様子はおかしくなった。

「お袋。痛かったかー?苦しかったかー?」
エールエールの周りでそうつぶやく彼の姿は何度も目撃されていた。
目撃した人々は、彼の事を精神異常者と思い、近づくのを避けたという。

そう、彼にとってこの街そのものが母親だったのだ。

駅も、南口にある古い建物も全て彼にとって母親だった。
その古い建物を取り壊して立てられたデパートなど、彼にとって母親の体に出来た ガン細胞のような物だったのだ。


ある日の取り調べでyasは取調官に言った。

「見てろよ、お前ら。
俺は失敗したが、俺の兄弟や仲間があんなデパートぶっ壊しに行くからな・・・ ふふふ・・・あっはっは。」

yasの自信満々の声に警察はエールエールの周りに厳戒態勢を敷いた。

しかし、数週間経っても、そのような不審な人物は現れない。
ただ、デパートの周辺をトンビがしょっちゅう目撃されるようになった。

トンビはデパートの周りを飛び、時折集団でデパートの壁をくちばしで突つくのだ。

そう、トンビもこの街で生まれた者達。いわば、彼の兄弟なのだ。
yasの無念を晴らす為、母親の無念を晴らすため、今日もトンビは飛び続ける。

「はっはっはっは・・ざまあみろ!」
yasは留置場で叫び続けるが、トンビが突ついたくらいで、どうこうなるような建物でもない。

いつしか、エールエールA館の周りを飛び、壁を突つくトンビの群は この街の名物になり、これを見たさに観光客の数は増え続けた。

皮肉な事にyasの大事な母親であるこの古い街は、 どんどん取り壊され、都市の窓口にふさわしく改築されて行ったという。

広島駅南口

広島の正面玄関。 再開発によって、古い建物が取り壊されて、 エールエールA館などの建物が建っている。
が、まだまだ古い建物が残っていて、古い建物フェチにとって見どころは満載だ。

写真はエールエールA館、広島駅ビル、古い建物など。
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