出崎森神社


私の自宅から約2キロ歩いた所にその神社はある。

私が子供の頃よく遊んだ場所だ。
ここはベンチや遊具も設置されていて公園としても利用される。春には桜が咲き誇り、知る人ぞ知る桜の名所として地元民に愛されている所だ。

しかし、この神社も昔、嫌な噂があった。

丑の刻参りと呼ばれる呪いの儀式が数回目撃されているのだ。真夜中、藁人形に五寸釘を刺して相手を呪うというやつだ。
夜中に釘を打つ音が聞こえた・・・朝、神主さんが山を見回ると、桜の木に藁人形が刺してあった・・とかいう話を何度も聞いた。
しかし、それで呪い殺された人がいるかと言うと、そんな話も聞かない。まあ、呪いで死ぬなど迷信だから、それも当然だろう。
私も子供の頃はよく丑の刻参りの真似事をしたものだった。


私は久々にこの神社にお参りすることにした。
肝試しも兼ねて、ある男と二人で真夜中に行った。

私は道すがら、その男に丑の刻参りの話を聞かせ、さんざん脅しておいた。
彼の名はヨシヒロ。私の職場の後輩だが、肝が細いので有名な男だ。職場では気の弱さが災いして皆のパシリ的な存在だ。

もちろん、私も彼をアゴで使っている。そのヨシヒロが、私の脅しで顔をヒクヒクさせながら必死でやせ我慢をし、平静を装おうとがんばっている所が妙に笑えて楽しかった。

「ヨシヒロ。ここの森にはでっかいフクロウが住んでてな。食うんだよ・・・」
真っ暗な境内に続く落ち葉が積もった階段を登りながら、私は後ろにいるヨシヒロに話しかけた。
「な・・なにを食うんすか・・?先輩・・・」
「人だよ・・・人。・・・人の指を食いちぎるんだ。この町に指のない人が多いのに気付かなかったか?」
「・・・・」
ヨシヒロが少し顔を引きつらせた。もちろん冗談だ。
だが、泣きそうな顔になって、多少歩みのリズムを乱したヨシヒロを見てると面白くて吹き出しそうになった。

私はヨシヒロと仲が良いわけではない。肝の細いやつをからかうのが好きなだけだ。
さんざん脅しておいて、職場でそのことを面白可笑しく話すのが好きなだけだ。私はいつもヨシヒロをバカにして、いじめて楽しんでいる。
ヨシヒロは私のことを嫌っているはずだ。しかし、嫌いな私の誘いに断ることも出来ないのがヨシヒロという情けない男なのだ。


「せ・・先輩!」ヨシヒロが私の肩を後ろからつかんで呼び止めた。
「どうした?」私はいきなり掴まれ少しギョッとしたが、ヨシヒロには悟られないように努めた。

「そこに藁人形が・・!」
ヨシヒロの指差した先の茂みの中。太い木の幹に五寸釘で刺した藁人形があった。
ヨシヒロは、私を追い越し、その藁人形を幹から抜き取り言った。
「せ・・・先輩・・この藁人形・・・住所と名前が書いてあります・・・」

臆病なヨシヒロが呪いの藁人形を抜き取ったことに私はかなりびっくりした。
私でも気味が悪くてそんな真似は出来そうにないからだ。
しかし、ヨシヒロに出来たことを私がやらないわけにはいかない。
「なんて書いてあるんだ?」私はヨシヒロから藁人形を無理矢理奪った。気持ち悪かったが、表情にはいっさい出してないはずだった。

「ばかな!」
藁人形を手に取った私は、それだけ言って絶句した。
なぜなら、藁人形には薄い半紙のような紙が一枚張ってあり、その上に私の名前と住所が書かれていたからだ。どうしてだ?私は人に恨まれるような事はしてないはずだ!何一つ・・・あっ。


一人だけ私を恨んでる人物がいる事に私は気付いた。
私は藁人形を地面に叩き付け叫ぶ。
「ヨシヒロ!お前か!お前がいたずらしたのか?!」
「違いますよ、先輩!見て下さいよ!その藁人形、かなり古いものですよ!」

言われてみれば確かに古い。かなり年代物の、自然に風化したような朽ちた藁人形。昨日今日、いたずらで仕込んだものではないような代物だ。では・・・?

「む?待てよ・・・この字は・・・あっ!」
私は遠い昔の事を思い出し、背筋が寒くなり、その場から飛んで逃げたい衝動に駆られた。

この字は!藁人形に書いてあった字は私の字だ!
思い出した!子供の頃私はいじめられっこで、藁人形に無理矢理自分の名前と住所を書かされた事があった!この神社で真夜中、無理矢理近所のガキに藁人形を貼付けられた事があったのだ!
それが20年以上も経っているのに、まだ残っていたのだ!誰にも発見されずに!

「そんな事があったんですか・・でも、先輩元気ですよね。藁人形効き目ないって事ですよね・・」

ヨシヒロは、冷や汗出してガクガク震えている私に向かって残念そうに言った。
そして、ブルゾンのポケットを弄り、あるものを取り出した。それは五寸釘と藁人形だ。
「実は先輩・・・俺、先輩の名前書いて、藁人形打っとこうと思ってたけど止めときます。だって、全然効き目がなさそうじゃないですか・・他にいい方法、先輩知りませんか?」
そう言ってヨシヒロは、ヒヒヒと笑った。
その笑みは、まるで悪魔のように私には見えた。

「うひゃー」
私は神社に向かうのを止め、ヨシヒロを置いて転げるように階段を走って逃げた。何が恐かったのかよく分からない。子供の頃の思い出をヨシヒロに知られた事。自分の藁人形。ヨシヒロの悪魔のような顔。それら全てが融合して、いいようもない恐怖が私を襲い、私はその場から逃げ去った。


次の日、職場で私とヨシヒロは顔を合わせた。
「おはようございっす!先輩。」ヨシヒロは夕べの事は何も覚えてないような顔で私に挨拶をする。
私は彼から少し目をそらし、コピー用紙を運びながら小さな声で挨拶を返した。私の方にニコニコしながらヨシヒロは近付き、耳元で言った。

「ところで、先輩・・せっかく作ったから、あのまま刺しときましたよ。藁人形・・・」
「え”!」私は手に持っていたコピー用紙を辺り一面にばらまいた。
「なんて顔してるんすか・・冗談っすよ、冗談。ヒヒヒ。」ヨシヒロは、夕べ見せた悪魔のような顔で笑った。
その日から私は、ヒヒヒと笑うヨシヒロの事が妙に恐ろしくなり、ヨシヒロのいう事は何でも聞くようになってしまったのだった。

出崎森神社

海田町にある普通の神社
桜もあるし、風情もある。いいとこですよ。祭りも楽しいし、保育園もあるし。
写真はストーリーとは全然関係ありません。
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